令和7年度 第37回ティーデマン・ふすま賞

第37回ティーデマン・ふすま賞
授賞式
期日:令和7年10月18日(土)
会場:山形国際ホテル
受賞者と研究項目
・中村 陽(令和7年3月 人文社会科学部人文社会科学科グローバルスタディーズコース卒業)
「気候移民対応の行方」

・佐藤 杏樹(令和7年3月 大学院理工学研究科博士前期課程修了)
「可視光高速測光装置IMONYのASICシステムにおけるFPGA処理系の開発」

授賞式は、「令和7年度ふすまの集い」の開催に先立ち行われ、髙橋節ふすま同窓会長より受賞者に賞状とメダル、賞金が贈呈されました。

受賞者の論文要旨

中村 陽   「気候移民対応の行方」
気候変動は、異常気象だけでなく安全保障上の問題でもあるとの認識が広まり、実際に気候移民の数が増加しているにも関わらず、その対応についての議論は進展していない。本論文は、その理由と国際社会が気候移民にどのように向き合うのかを明らかにすることを目的としたものである。考察にあたり、各国の移民・難民政策に大きな影響を与えている国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)と、実際に多くを受け入れているドイツ及びオーストラリアの分析を行った。
気候変動を理由に移動する人々を表す言葉は現状1つに定まっておらず、国際法に環境難民の定義は存在しないため、UNHCRは彼らを難民と認定することに否定的である。また、その影響力から鑑みてUNHCRが見解を変えない限り、国際社会で彼らは、あくまで移民の一部と見なされるだろう。
ドイツは、ナチス・ドイツへの反省を示すために在外同胞の保護に注力し難民にも寛容的だが、気候移民に関しては、その存在を認めながらも受け入れについては可能性にすら触れていない。これまでの国内で発生した排外暴力事件や基本的に移民は認めないという政府の排外的な側面を踏まえると、気候移民は、高度な技術を持つか避難の理由に紛争や迫害が関連しない限りドイツでは受け入れられないと考えられる。
オーストラリアには経済発展と人口確保のために外国人労働者を呼び寄せた歴史があり、安全保障に関する懸念と外交政策の一環として難民条約を拡大解釈した人道移民の受け入れを進めてきた。オーストラリアは気候移民への対応が進む国の1つだが、それはあくまでも条件付きのものであることから、安全保障や自国経済におけるメリットがない限り、気候移民の受け入れはしないと考えられる。
以上から、気候移民は彼らそのものでなく「重視する事柄」を通して対応が検討されており、様々に絡み合った利害関係が議論を進めるうえでの妨げになっていると考察した。

佐藤 杏樹  「可視光高速測光装置IMONYのASICシステムにおけるFPGA処理系の開発」
本論文では、先行研究で開発されたImager of MPPC-based Optical photoN counter from Yamagata(IMONY)について、FPGA内部での光子の時刻付けの処理の改善とシステム自体のアップデートを行った。
光子の時刻付けの処理については、デジタル回路内でその処理を担う各レジスタの遅延を計算し、それらが正確な挙動で動くよう、デジタル回路のコーディングを修正した。また、一部の観測モードで光子が連続で到来すると後続の光子検出を取りこぼすという課題があったが、デジタル回路内でのイベントデータ生成部分の判定方法を見直し、デジタル回路のコーディングを修正した。
また、先行研究のシステムは読み出し系が4系統並ぶ構成だったため、部品点数が多く配線の接触不良が頻発し安定性に課題があった。そこで、信号の読み出しを行う素子として新たにApplication Specific Integrated Circuit (ASIC)を用いて、読み出し系を1系統にまとめる新基板システムを開発した。本論文では特に新システムのFPGA内部のデジタル回路の開発を行った。具体的には、基板上のモジュールの制御、ASICからのタイミングパルスの検出とデータ化、PCとFPGAとのデータ通信といった機能を開発した。
これらの機能はデジタル回路をコーディングすることで開発し、各機能の実装後にはダークノイズの観測実験と周期光源の観測実験を行うことで、100ns単位で光子の時刻付けができていることを確認した。また、広島大学のかなた望遠鏡に新システムを導入し複数のチャンネルでCrabパルサーの周期検出に成功した。
この観測実験の結果から、新システムが天体観測に有用である可能性が示唆された。

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